概要

小学五年生の村山和樹は夏休みにおじさんの朝一のいる田舎の漁村に二週間泊まることになりました。先生からは「子供にできる環境にとって一番大切は事は何か探してくること」という宿題が出されます。釣りに海水浴に昆虫採集、都会っ子和樹の大冒険の始まりです。はたして夏休みの間に宿題の答えは見つかるのでしょうか?
この作品は九割くらい事実に基づいています。


それはある年の八月一日、夏休みまっただなかのことでした。小学五年生の村山和樹は一年ぶりにおじの朝一(あさいち)の住んでいる星鹿町(ほしかちょう)という何もない漁村にやってきたのです。ただし、何もないというのは大人の目で見たらということで、子供達にとっては・・・子供達にとってどんな所かはこのお話を読んでいると、だんだんわかってくるでしょう。とりあえず今はまだないしょです。和樹はこの夏、この田舎で思い切り大自然を体験しようと思っているのです。ただし、この旅行にはひとつの課題がありました。「地球環境のために子供が出来る、一番大切なこととは何かを大自然の中で見つけてきなさい。」というのが、担任の坂本先生からの夏休みの課題なのです。それは、今の和樹には、まったく見当のつかないことでした。
 和樹の伯父の朝一は六十才で会社をやめ田舎に帰り、退職金でのんびりくらしています。朝一おじさんは少し不思議な人で、どう不思議かと言えば子供に対して友達のように対等の態度で接してくれるのです。そしてジョークを言うことが好きなおもしろい人でした。だから和樹は朝一おじさんのことを友達だと思っているのです。


 村の入口に近づくと、白い板壁の小さな郵便局の前の空き地で村の子供達がドッヂボールをしているのが見えてきました。空はスポーツ日和で晴れ渡っています。子供たちは頭が焦げそうに暑い日差しだというのに、涼しげな顔をして遊んでいます。和樹は思いました。
 (一年前仲良く遊んだけど、僕のことおぼえているのかな・・・)
ひとりの少年がいち早く和樹がいるのに気づいたようです。その少年は洋君でした。去年一緒に遊んだのです。洋君は額の汗をぬぐいながら大声で言いました。
 「あっ、村山君だ。村山君、こっちのチームね。」
 「あっ、ずるい。村山君はうまいから、こっちもほしい。」
そうひとりの女の子がさけびました。その子は美都子ちゃんといいました。そういえば去年、その子とも一緒に遊びました。洋君が言いました。
 「先に言ったもの勝ちなんだよ。ねえ村山君。」
 和樹は困って言いました。
 「じゃんけんで決めて。」
 和樹はとても驚きました。自分のことなんか忘れているかもしれないと思っていたのに、まだ仲間のままなのです。和樹は田舎の子供って心が広いなあと、あらためて思いました。都会ではすぐそばに住んでいても、クラスが変わると口もきかなくなったりすることすらあるのです。きのうまで友達だった、なんて思ったりするのです。
洋君と美都子ちゃんはじゃんけんをしました。美都子ちゃんがパーで、洋君がグーで、奈津子ちゃんの勝ちでした。美都子ちゃんはすらりとした、とてもかわいい女の子なので和樹はうれしく思いました。けれども和樹がデレデレしていたせいでしょうか、敵の洋君から当てられて和樹はすぐに外野行きでした。美都子ちゃんが言いました。
「ああっ、超強力助っ人外人がやられたあ。」
 それを聞いて洋君が言いました。
「見たか、じゃんけんのうらみ。正義は必ず、勝つ。」
和樹は自分がたるんでいたことをすごく反省して、美都子ちゃんに言いました。
「すぐに内野に戻って、名誉挽回する。」
 「メーヨバンカイって何?」
「さっきの栄光を取り戻すってこと。」
 「絶対よ。」
 そう言ってすぐに和樹は敵の一人に見事当てました。それは、一番仲の良い康雄君でした。康雄君は言いました。
 「ひどいよお、和樹君、友達でしょう?」
 「スポーツの世界にお情けは禁物だよ。」
と和樹が答えて、康雄君が言いました。
「冷たいなあ、もお。」
内野に戻った和樹のそれからの活躍はなかなかすごかったのです。一人当て、二人当て、三人当て・・・敵は全滅して和樹と美都子ちゃんのチームの勝利でした。美都子ちゃんが和樹に言いました。
「やっぱり、さすがね。」
康雄君が言いました。
「大活躍だったねえ。」
洋君も
 「うんうん、敵ながらアッパレ。」
と時代劇言葉で言い、和樹は
 (やっぱり、星鹿の子たちはやさしいなあ。)
と、うれしく思いました。


 ドッヂボールが終わり、朝一おじさんの家へ向かおうとしていると、いきなりバレーボールが飛んできて和樹に当たりました。和樹はひっくりかえって、ボールが飛んできた方を見ました。きりっとした顔の半袖半ズボンで裸足にスニーカーをはいた奴が和樹をにらんでいました。
 「おまえ、福岡から来た奴だろ。」
 「いたいなあ、何するんだよ。君は誰?」
 「美都子とデレデレしていた奴にオレの名前なんか教えない。」
 「あっ、見てたのかい?」
 「じゃあな。」
そう、言い捨てて、そいつは走り去ってしまいました。和樹はなんだか狐に化かされた気がしました。どこかでせみがじいじいとないていました。

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